坂道雑文帳

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ひらがなけやき、アイデンティティの淵源。(5)

日本武道館公演、新たなステージへ

 2018年に入り、ひらがなけやきはさらに大きな舞台に立つことになった。
 日本武道館公演。しかも平手友梨奈のけがにより漢字欅の公演がひらがなけやきに振り替えられ、当初1日の予定が3DAYS(1月30日~2月1日)になるという予期せぬ事態に見舞われるなかであった。
 しかしひらがなけやきは、公演当日まで3週間を切ったところでの振り替えであったにもかかわらず平日の3DAYSを完売させ、その勢いを改めて示してみせた。

 公演のセットリストとしては幕張でのツアーファイナルと似通っていた。定番の「ひらがなけやき」でスタートし、数曲を挟んでユニット曲や2期生のコーナーがあり、「永遠の白線」「手を繋いで帰ろうか」「誰よりも高く跳べ!」で会場を盛り上げ、「太陽は見上げる人を選ばない」で締める。
 しかし、舞台や演出の世界観がサーカスをイメージしたものに作り込まれたことで、まったく違う印象を与えていた。そして幕張では出演できなかった柿崎芽実も復帰し、全員が揃っての公演であったことで、よりパワーが増した印象もあった。
 また一点、特筆すべき点として「100年待てば」がセットリストに加えられたことが挙げられる。本来は長濱ねるのソロ曲であるが、1期生11人によるカバーという形での披露であった。
 町の様子を模したコミカルなステージ演出に加えて客席には風船が降り注ぎ、まさに「ハッピーオーラ」を体現したような時間であった。長濱との紐帯を感じさせる選曲であったことも含め、まさに「ひらがならしさ」にあふれたパフォーマンスであったといえるだろう。

・2期生コーナー、まさかの「大技」

 そしてもう一点、特筆すべき点があるとすれば、それはもちろん2期生コーナーであろう。幕張での各メンバーによる自己紹介のかわりにダンストラックが加えられ、さらに日替わりで乃木坂46のカバー曲を披露した。初日は河田陽菜をセンターに据えた「おいでシャンプー」、2日目は小坂菜緒をセンターに据えた「君の名は希望」、3日目は渡邉美穂をセンターに据えた「制服のマネキン」であった。
 このことについては筆者は以前、ちょうど卒業を発表した乃木坂46生駒里奈へのはなむけだったのではないかと書いた(→『「制服のマネキン」、「再構築」に思う』)が、もうひとつ重要な意味があったのではないかとも思っている。
 それは、ここで2期生が披露する曲として乃木坂46のナンバーを選択したということは、「漢字欅の曲が選択されなかった」ことでもある、という点である。

 この公演はタイミングとしては5thシングル期であり、「半分の記憶」などの2期生曲がリリースされる前であった。1期生中心のセットリストとの重複を避けながら2期生にもパフォーマンスの機会を与えようとするとなかなか難しい。筆者はここで「サイレントマジョリティー」を最後の切り札的に使うのではないかと予想していたが、その予想は斜め上に裏切られた。確かに、持ち曲がないこのタイミングだからこそできる「大技」ともいえる選曲であり、乃木坂46のファンでもある筆者は心の底から楽しませてもらった。
 また、結果としてこれまで、2期生は漢字欅の曲をパフォーマンスしたことがない(2期生おもてなし会「音楽部」で披露された「チューニング」を除く)。このことは、この公演3日目のアンコールで発表された通り、単独アルバムの発売で一気に独立路線をとっていくことになるひらがなけやきにとって、何らかの意味があったことであるように思えてならない。

・集大成としてみる日本武道館公演

 これまでに挙げてきた点からみていくと、この日本武道館公演はこれまで述べてきたひらがなけやきの強みがすべて現れていた、集大成ともいえる公演であったのではないかと考えられる。
 「ひらがならしさ」を追求したハッピーオーラにあふれた公演だったことはもちろんだが、「100年待てば」ではメンバー喪失の経験を、2期生コーナーではメンバー増員の経験を確実にプラスに変えていた。また、アンコールで初披露された1期生11人による「イマニミテイロ」では、特段の言及なく佐々木美玲がセンターを務めており、静かにセンターを変えながら新たな表現を追求できる強みもよく現れていたと言えるように思う。

 Zepp Tokyo公演に始まり日本武道館公演まで、ワンマン公演のセットリストはすべて、「漢字欅の曲をカバーする」「既発のひらがな曲はすべて披露する」という形でつくられていた。
 特に漢字欅の曲をカバーするという点は、単独アルバムの発売によって一区切りということになる。この日本武道館公演はそうした意味でもひとつの集大成、第一章の終わり、という意味をもっていたのではないだろうか。